2011年4月 中杢ラボのもの作り

大工さんの現場から考えるリサイクルの現実・リサイクルの本質。

札幌市南区に拠点を構える中杢(なかもく)工房。住宅や茶室、店舗等の設計施工・改修を行う大工の中井さんがまほうの絵ふでにいらっしゃいました。
「現場で仕事をしていると、使われなくなった小さな端材がたくさんたくさん出てきます。『ムダにしたくない』『なにかできないかな』という気持ちから、端材を使っていろいろなものを作っています」
 詳しくお話を聞いてみると、仕事の合間に子どものおもちゃや生活雑貨を作っているとのこと。
「でも端材を使って何かを作るのは、ものすごく手がかかるんです。みんな勘違いしてるんですが、リサイクルっていうのは新しい素材で作るよりも何倍もたいへんなんです。乾燥してなきゃ薪にもできないし、何にするんでもいろいろ条件がありましてね。」
 これはなかなか理解しにくいことかもしれませんが、古材を使うっていうのはものすごく手がかかることなんです。例えて言うなら使い古しのメモ帳に書き込むのと、新しいメモ帳に書き込むのとでは、情報の整理のしやすさが違います。道徳としてのリサイクルは理解しやすいのですが、熱力学的にはリサイクルって、トータルでのエネルギーは余分にかかります。だから実はすごく贅沢なことなんですね。エコとかリサイクルという言葉だけで、子どもにうわべだけ教えてしまうのもよくないことだと感じます。
 中井さんは実体験からもそのことに理解が深かったのですが、古材を使うのは基本的に大工さんとしての木材に対する愛情からだと感じました
「山から切られた木が工場で加工されて…こうして材料としてやってくるんですよ。それを端材であっても何に使えるかわからないし、いざ使うとなるとすごく手間がかかるとわかってはいても、つい捨てられない。」

変わった親方の下で学んだこと。

 大工になりはじめの頃は、主に茶室を作っていたという中井さん。大工になった経緯を聞いてみると、とても興味深い話を聞かせてくれました。
「若い時、大して仕事もしないで悪いことばかりしてたら『そんなに若いのにフラフラしてたらだめだ、ちょっと仕事教えてやるからおじさんの会社に来い!』って、知り合いのおじさんの銘木屋さんに連れて行かれたんですね。そこには建築の人とかいろんな業者が出入りしていたんです。若いのであちこち手伝いに行かされる中で、内地で茶室を作る修行をして来たという親方に出会ったんです。かなり変わってる人で、誰も若い人がついてなかったもんだから、出向みたいなかたちで自分が行かされて。」
「現場を歩いたら怒られる。掃除したら怒られる。釘一本打ったら一回怒られ…それこそ箸の上げ下ろししただけで、みたいなもんですよ。だから若い者は何もできない。でも何で悪いのかは言わないの。ただ『悪い。』それで終わり。その後1週間くらい口きいてもらえない。そんな親方でした。5~6年一緒にやってたんだけど、やれた人が結局僕しかいなかったんだ。」
 そういえば校長の絵の師匠もたいへんな人でした。神経質でカンシャク持ち…アドバイスは極めて分かりにくい…絵を見て言うことが「鉢植えとか植えたらいいよ」「きれいな色のセーター着てこい」ですからね。ほとんど禅問答!否応なく考えさせられて、本当に勉強になりました。
「歩き方の話でいうと『かかとでバンバンたたくように歩くのは歩いてるって言わないんだ、おまえはガキか』って言われて、なるほどな、そうなのかなって思うんだけどそれでも当時はピンとこない。で、後で子ども生まれてからわかったんです。家の中をダダダダダダって歩くの見て、ああなるほど、自分はこういうことをしてたんだなとやっとわかった。そういうのがだんだんクセになったというか、楽しくなってきて。それがないと逆に寂しいみたいな(笑)」
 うーむ、わかる、わかるぞ!筋が通った理不尽さっていうのは、実はパズルを解くようなもので、すごくおもしろいんです。しかし最近の若い子たちには耐えられないんじゃないか?
「それを楽しめるかどうか、本人次第。よく若い人たちによく言うんですけど、『明日からもう来るな』と言われても、自分に習う気があるのなら、平気で行って、つらっと横に座ってろよと。なかなかわかってもらえないんですけどね、もし相手にダメだと言われても、自分に習う気があるなら楽しくやれと。本人の取り様ですよ。それを楽しまないと勤まらないよって。」

大工さんの工夫で生まれたもの。

 そんな中井さんが、なんとえふでの子どもたちのために特別に木の額縁を作ってくださることになりました。もちろん一点一点手作り。材料はできる限りリサイクルの思想を大切に、建築材料の余り部分を加工して作ります。それぞれ木の質や色の違いが生かされた素敵な仕上がりになっています。状態も形もバラバラなので、使える状態にするまでが一苦労だとおっしゃっていましたが、ある意味これってものすごい贅沢品です。これこそ本当のリサイクル、ものを無駄にしない職人さんの心意気が、えふでの子どもたちにぴったりだと思いました。