2008年5月 美術教育の理想と現実

校長/今回は、えふでの月一で開催してるママ部で、美術教育の理想像と現実みたいな話ができたらいいなと思ってね。

井桁/大学受験のことだけじゃなくて、子どもが将来成長したときに美術やデザインの道に進むというのが、ひとつの選択肢であることを話す機会になるといいね。今回はこういう立場で行くんだけど、学院の宣伝で行くつもりはないです。あくまでも一番の理由は、えふで自体の教育のもっていき方が自分も良いと思うから。

校長/ワシも気がついたら受験業界から離れてもう十年とか経ってて、考えてみたら当時のは三世代も前の学生だもんね。最近の大学事情や受験生は実際どうなのかなって話にも興味がある。

井桁/よく出る話に、受験をするにあたり、まず美術系の就職情報が少ないってことが挙げられる。絵描きさんになったり…とか言っても、みんな実際には貧乏になる?果たして食えていけるのか?って。一昔前なら、美大を卒業したって看板描きくらいしか職がないとかへんな話があったくらいでさ。そんなのほんとは全然ちがって、仕事は山ほどあるんだよね。それにお母さんたちの考えもいろいろだと思う。少なくても子どもが高校生ならまだしも、小学生とかでえふえに通っていて、いろんなきっかけをもらったり、もしかすると将来…なんて考える場面のヒントになってくれたらいいね。ゴールをどこに持ってったらいいか、具体的には何をすればいいか。

校長/実際、最近の就職とかはどうなの?

井桁/今は一般大学だと、女の子が大学出ても、かえって就職がなかったりする。一部では文系と教育系の女子がいちばん使い物にならない、と言われてたり、学校の先生とかにはなるべく理数系や専門の科に進みなさい、と勧められたりもするみたい。一方、美術系の大学を見ると、倍率も下がってきているし、男女の違いがない条件で受け入れられる。その後もすごい売れっ子デザイナーになるだけでじゃなくてね、個人で仕事を請け負ったり、ほんとに好きなことをピンポイントで仕事にしていく人が、実際には今いっぱいいるんだよ。まず自分の好きなこと・やりたいことが先にあり、それに合った仕事を取ってきて、活躍していくという。その意味では、一般的な、まず企業や会社があり、仕事があり、そこに見合った人材を・・・ってかたちとは逆でね。例えば、日本の住所って、都道府県があり、市町村があり、番地がありって大きな方からいくでしょ?そうじゃなくて、個別の番地が先で、次に市区町村、都道府県、で、さいごに大きく日本、みたいな…

校長/おお、それはわかりやすい!

井桁/だから、やりたいことが仕事になる、やりたい仕事に就けるという意味では、今の美術系の大学はすごくいい状況にある。美大・芸大の進路を選ぶってときに将来のことを心配する人が多いけど、広くみても恵まれてると思うよ。

校長/でもよく推薦入試で実技試験を受けないまま合格しちゃうのとか聞くと、「おいおい、いいのかそれで?!」って逆に心配になることもあるけど。何せみんな自分の都合に聞こえるんだよね。努力するしないとか言うけど、まず作り手に対する尊敬がないとダメだってのがえふでの基盤。そこを飛び越してしまうと、すぐコスト優先でつくらせましょうとか、肌合いがわからないから安い国の工場でいいじゃんとかさ。ほんとに良いかどうかのジャッジができない気がするんだよね。

井桁/だからね、えふでをみててよく思うのは、小学校とか中学校のうちに美術の在り方というか…子どもによく言うのはね、カラオケ行きましょう、スキーやってて気持ちいい、ゲームがおもしろいとかってのは、楽しいだけならすぐ飽きちゃうだろ?って。ゲームでも何でも、それをクリアする困難さがあるのが面白いんだ。その意味では美術の場合、たいへんな割にうまくいくことばかりじゃないから、見返りの少ないジャンルだよね。だからこそ「好き」っていう原動力がもっともっと大きくないといけないなと思う。

校長/ワシはね、「校長は絵を描くのが好きなんですね」とか言われると、間髪入れず「いや全然」ってプルプルッと(笑)。アル中でお酒たくさん飲むからって、お酒飲むのが好きなんですね、なんて言わないでしょ。そういう人たちは決してお酒が好きなわけではなくて、飲まざるを得なくて飲んでる。ワシも描かざるを得ないというか何というか…へんな話だけどさ。美術にはなぜかみんなやたらに夢があるんだよなあ。だからワシは、親にも子どもたちにも、美術はもっと業の深いものだって言ってるよ。

井桁/そういえばこないだ、ある浪人生の女の子が「美容系の進路もいいなと思う」って相談してきたんだ。俺はどうしても美術にしがみつく必要なんてないと思うから「やりたいことが見つかってよかったな、がんばれよ!」って言ってたのね。そしたら横で聞いていた別の子がさ、すごくぽわーんとした子なんだけど、突然「自分には美術しかない。」要するに「ほんとに好きだったら迷わない」ってことをポツリと言ったの。迷うくらいならやめた方がいい、自分には迷う余地すらないってことをね、スパンと言い放ったのよ。先生たちもそれ聞いてびっくりしてさ。そういう風に考えられる人が今は少ない。小さい頃からいい教育を受けていれば、その辺はね。受験は勝ち負けのジャンルだから、厳しいし。

校長/それ聞くと井桁さんは親だし、愛情がすごくあるように感じる。えふでは、覚悟を求めてる。「たき火は遠くで見る分にはきれいだけど、近いと熱くてしょうがないだろ?」って。美術はそういうもんだ。それを理解したうえで、それでもやりたいというなら、その先を紹介してやるよ。でも決して早まるなって(笑)。それに受験は勝負事だから、勝ち負けがおもしろいと思わないと続かないしね。

井桁/美術ってある意味、教育とは相反するところがあるじゃない?えふでの子たちは、こっちに来てからも、そうやってきて、ほんとによかったって言う。粘土でこんなの作ったんだとか、こんな絵描いたんだとか…楽しいこと、おもしろかったことをいろいろ聞かせてくれる。そういうところに人間のバロメーターが出てくるよね。その意味では教育って、ほんとに良かったんだ、と言ってくれるかどうかにかかっているでしょ。かといってね、小学生でも中学生でも、専門教育を早いうちに受ければいいかというと、それは思わない。基本的にえふでは受験とかの立場から一線引きましょうというかたちだし、自分も美術だけにのめり込ませる必要は全くないと思う。興味を持っていろいろやっていくのは全然遠回りじゃないし、すごく良いことであって。それに高校の美術コースとかから行った方がいいかと聞かれたら、もし将来美術をしたいならまず「勉強したらいい」と思うね。小学校中学校で勉強ができるかどうかは、大切なバロメーターだから。

校長/それに東京で活躍している人たちをみても、デザインの仕事とかってとにかく体力がいるんだよ。やっぱ体力あるやつは強いよね。だから子どもには運動させるべきだと…ワシら体育会系だし。