とうとう実現してしまったD-BROS植原亮輔さんと渡邉良重さんのワークショップ。おふたりの仕事のすばらしさを目の当たりにするたびに、いつかえふでの子どもたちとワークショップをしていただきたいと願って来ましたが、いざ実現すると、ちょっぴりの寂しさも感じてしまいました。ああ、いつか終わっちゃう…的な…。本当にこのままずっと授業が続けばいいのにという気持ちになってしまう、日本中のひとが羨む特別なワークショップでした。参加した子どもたちの得たもの、こころに残ったものを今すぐに見ることはできませんが、この先いつの日か新たなクリエイションとして芽が出るような気がします。
今回、5月3日に行なったのは、D-BROSのお二人とゆかりの深い音楽家・阿部海太郎さんとの3人による「絵と音楽のあいだ」という特別授業です。えふでは子どものためのアートスクールですから、デザイナーの仕事に対する厳しさについては、きちんと理解しているつもりでしたが、海太郎さんのような目覚ましい活躍をしている音楽家にお話を詳しくうかがう機会を持つのも初めてで、ゲストにお呼びするのをたいへん楽しみにしていました。早い時期の打ち合わせの席でも、海太郎さんは「音楽は鑑賞にもある程度の訓練が必要なんです」とおっしゃっていました。実はこの言葉をいただく前から、音楽を題材としたワークショップを行なうのだから、安易なものではなく音楽の魅力をしっかり伝えることができるものにしたい、またD-BROSのお二人も関わるのだから、同じように美術のもつ魅力やすばらしさをもしっかり伝えられるものにしたいと考え、ただ楽しそうな雰囲気に流れること無く、作り手としての喜びや厳しさをどのように考えているのかについても、子どもたちに直に伝えたいとリクエストしました。モエレ沼のガラスのピラミッドで行なわれたこの講座の内容は、絵と音楽とをつなぐもの。音楽によってイメージを膨らませ、5種類の楽器一つひとつの音のイメージを、植原さんと良重さんが決めたフォーマットに落とし込んでいくというものです。参加する生徒の年齢も小学校2年生から高校生までと幅が広く、一歩間違えると、抽象的な難しいものになってしまう懸念もありました。結果としてすばらしいクオリティのワークショップになりましたが、それを支えたのはD-BROSの植原さんと良重さんが持つ、感覚を言語や作品などのかたちにして翻訳するちからであり、音楽家の海太郎さんが合わせ持つ、類い稀なる表現力と優しさでしょう。そして3人とも人間的な魅力という点で共通しています。
まず授業は、講堂の中での3人の紹介に始まり、デザインの仕事についてのレクチュアを植原さんと良重さんから。演奏や音楽についてのレクチュアを海太郎さんにお願いしました。みんなの緊張が少し解けたところで、40種類ほど並んだいろいろなパターン(模様)から海太郎さんが選んだ一枚に、海太郎さんが楽器を使って音をつけます。どの模様からイメージしたのかをみんなで当てたりしていきます。ひとつの正解というより、音楽家である海太郎さんが、色やかたちのどんなところに音のイメージを重ねているのかを考えるきっかけにしていきました。順番を逆にしたりして、海太郎さんならどんな音をイメージするのか、自分ならどんなかたちにするかなど、子どものイマジネーションも少しづつ膨らんでいきます。
午後はガラスのピラミッドの中心へ移動し、いよいよ制作に入ります。題材はこの日のために阿部海太郎さんが作って下さった曲『3rd May Quintet(5月3日の五重奏)』の5つの楽器の一種類づつの音だけを繰り返しくりかえし聞きながら、植原さんと良重さんが選んでくれた用紙(単語帳形式だったり、ノート形式だったり、マルや四角の厚紙だったり楽器のイメージで選ばれたフォーマットです)に子どもが自分で選んだ画材で自由に描いていきます。このフォーマットの規定(しばり)と自分の想像で描く自由度の設定がまず本当に素晴らしかった。苦戦したところもありましたが、最終的にはできた絵が木箱の中に標本のように並べられていきました。中央には曲の入ったCDが納められています。音楽関係者の感想を伺う機会もあったのですが「ひとつひとつの楽器のパートを、絵画制作のため(それこそ)からだにしみるくらい聞き込んで、最後に曲として構成されたものを聞くというプロセスがたいへん効果的で興味深かった」と言っていただきました。制作という側面から見ても、鑑賞という側面から見ても、あり得ないほど本質的な授業になったと思います。世の中にイマジネーションや創造性をうたう授業はありますが、音楽を題材としてここまで深く自分のこころに向き合って制作を進められたのは、日本屈指の才能を持つあの3人が先生だったからなのは間違いありません。