2010年1月 未来をつくる眼差し

 『デザイン界の知の巨人』として、度々この繪筆新聞でも紹介している柳本浩市さん。まほうの絵ふででは10月からジュニア・ラボの子どもたちを対象に、デザイン研究チームというワークショップ活動を実施しています。
 そしてすっかり恒例になったまほうの絵ふでの冬の展覧会、今年はこの柳本浩市さんとえふでの子どもたちによる、観察や調査をテーマとした壮大な展示を予定しています。9月に行ったトークショーの冒頭でもお話しましたが、この柳本博士、ひじょーにわかりにくい方でございます。なぜならスケールが大きすぎる!出てくる数字や視野が、桁違いに大きいのです。世にいわゆるコレクターと呼ばれる人たちはたくさんいますが、柳本博士のようにあらゆるフィールドに切り込んでいる人は珍しいでしょう。そのくらい稀少であり、普段はまずお目にかかれないすごい方です。

10月
 さて、そんな柳本博士と共にスタートしたデザイン研究チーム。冒頭から飛び出したテーマは「オバちゃん観察」。オバちゃん観察とは…柳本博士いわく「人はモノを買うとき、理論的に考えているというより、もっと動物的な部分や無意識の部分で善し悪しを感じ取っているのではないか」そしてその無意識のちからが最も発揮されているのがいわゆるオバちゃんたちである…という深い考察から生まれた概念。それを実際にお店に出向き、ひたすら観察してみるというのです。これを初めて聞いた時にはさすがに驚きました。ひとしきりデザインや教育の話をした後でしたから、最初はジョークかと思っていたのですが、話を聞くうちに論理的な根拠があることが判明。しかも今をときめく若手デザイナーやグッドデザインの弱点を見事に突いた鋭い視点と分かり、ぐうの音も出ませんでした。消費者の立場でものを作る。そこで基礎教育を行っているまほうの絵ふでとしては、この博士の視点にまっすぐ切り込むことにしたのです。
 途中経過はえふでのウェブサイトでレポートを見ていただくとして、実際のスーパーの売り場では、博士の言うとおり様々な「無意識」がありました。理由もなく商品を手にとる。しつこいほど果物の裏を見る。ラベルを凝視する。魚をつつく。パンを手でもてあそぶ…いやあほんとにほんと、それは何のため?と不思議に思えるほど、スーパーマーケットは謎の行為に溢れていました。子どもたちは小さなメモ用紙片手にひたすら買い物客の行動調査。何をどれだけ触ったか、どんなものと比べたか、どこを見ているのか…結果、何を購入したのかまでしっかりと調査メモに記入。そのデータ数は1000枚を越え、博士からは「プロのマーケッターよりすごい」とお褒めの言葉をいただきました。
 さらにただの数字や記号であるデータから、どんな意味を抽出できるか。「値段が第一」「おいしそうなものを選ぼうとしてる」「触ることでパンの味を想像している」などなど、買い物客の視点を掘り下げて考えていきました。加えて、買い物をスムーズにしてもらうため、お店側がしている様々な工夫も見えてくる。日常の買い物をするスーパーマーケットを舞台に、その土地の文化や人間性まで見ていこうというのが博士のすごいところです。

11月
 約1ヶ月後の2回目の授業では、子どもたちに情報のつながりを知らせるため、図書館を舞台にかなり本格的な調べものの授業。博士から問題が書かれたカードが配られました。
 「ロシア・アヴァンギャルド」「コンスタンチン・ブランクーシ」「武満徹」「アーツ&クラフツ」「ポンピドゥセンター」「グスタフ・マーラー」「ウィーン分離派」「白樺派」「ウィリアム・モリス」「松方正義」…大人でも説明を求められると困るくらいのキーワードがずらり。子どもたちはそれが人物なのか、物なのか、社会現象なのか、まったくヒントがない状態からスタートです。図書館に放たれた子どもたちがとった行動はまず図書検索機に向かって走ること。さすがはインターネット世代の子どもたち。しかし「この言葉じゃ出てこない」「本は見つけたけど…わかんない」そう簡単にはこたえが見つかりません。これは博士曰く「ネットにヒットしない情報をいかにリアルフィールドで導き出すのかの訓練」自分が必要とする情報にどのようにしてたどり着くのか。また、知らない単語や概念についても「この辺かな…」と仮説を立てて探すためのトレーニングといえましょう。
 はじめは相当苦戦を強いられましたが、どうにかそれらしい本にたどり着き、要素を書き出す。その結果「よく調べたね」と誉められることもあれば、「これは違うものだね」とばっさり切られることも。そのキーワードについて短く的確な答を求められるのです。例えば人物だと、その経歴を、思想や運動は定義そのものを…なかなかシンプルにまとめることができません。さらに建築物などは「設計したのはだれ?」「特徴は?」と…。結局博士からヒントをもらい、ようやくそれらしい書籍名が出てくる。しかしそこからその本の実物を見つけ出すのもたいへんで、本棚の前で途方に暮れる…そんな姿が多数見られました。聞けば博士は、その子の反応に応じて難易度を細かく調整し、答の要求についても、できるギリギリまで負荷をかけていたのだそうです。その子どもに対する観察力にも脱帽ものでした。みんな「難しい」を連発しながらも、やり終えた時には独特の達成感のある顔つきに。図書館という圧倒的な物理量の中からアナログに情報を見つけ出すという経験は、いつになく刺激的なものだったようです。

展覧会
 なぜ、柳本博士はこれほどまでに情報・データにこだわるのか。1月の展覧会ではそのあたりの謎を解明し、みなさんに新たな世界をお見せできると思います。幼少期から様々なものを収集し続けていた、かなり変わった少年。一般論に流されず、事実にこだわるあまり、まわりの大人たちをも困惑させた天才児。問題の前提そのものを疑うので、学校の先生なんかは相当手こずったことでしょう。しかしながら、この少年こそ今や大企業のアドバイザーとして活躍し、世の様々なブームを巻き起こす恐るべきクリエイターに育ったのです。
 『未来をつくる眼差し』展では、膨大な博士のコレクションとともに、天才の頭の中を模したいわゆる「脳内マップ」の中に入ってみることができます。今回、子どもたちが調べたキーワードが、博士の頭の中でどのように結びつき、影響しあっているのか?
 展示される脳内マップでは複層的に影響しあうその言葉を、実際に立体としてつなぐ行為に参加できます。つまり情報を自分が仲立ちし、つないでいく。それによりさらに理解が深まっていく。そのとき会場の博士のたくさんのコレクションがつながる道筋が見えてくるかもしれません。セントラル7Fで来年1月12日からスタートする『未来をつくる眼差し』展でお会いしましょう!