「道路をつくる人ってすごい…」
参加したこどもがぽつりと言ったことば。同じ「もの作り」ですが、アートの世界と土木エンジニアリングの世界では、取組み方が大きく違います。普段何気なく歩いたり、車で走っている道路はみんなのお金(税金)で作られるもの。便利さや安全面、コストなどの念入りな計画のもと、たくさんの人たちの力で作られる道路づくりの世界を小学生が体験。もの作りの幅広さと奥深さを知り、さらにこどもたちが社会について考えるきっかけになる授業でした。
道路づくりの専門家・澤先生がやってきた!
まずはみんなで道路の役割について考えてみよう。
「人や車を通らせる」「行きたいところに行ける」「道路があるとお店や家をつくれる」「中に電気や水道が通ってる」「お祭ができる」など、こどもたちからたくさんの意見が出ました。
さらに澤先生が実際に北海道内に作った道路を見せてもらうと「渋滞を回避するために作った道路」「吹雪で視界が真っ白になる問題を解決するために工夫した道路」など、人が困っていることを助ける役割もあるようです。なるほど!
この授業でこどもたちが道路をつくるのは、札幌市中央区の円山。動物園から裏側の旭ヶ丘へ抜ける道路を考えます。さて、どこに道路をつくると良いでしょう?まずはそれぞれ平面図上に線を引いてみることからスタート。
何もヒントがない状態なので全くの想像だけで考えてみたのですが、こどもたちの意見はだいたい以下の3つのコースに分かれました。
自分がどんなルートを考えたのかを発表していきます。それぞれ理由を聞いてみると「直線の方が近いから」「急すぎると登れないからゆるやかに」「山頂を通る方が景色が良くて面白い」「自然環境を考えて…」など様々。
それぞれの考えをもとに、みんなでどんな道路が良いのかを検討していきます。ここまでは地図だけでしたが、立体の模型も登場させたところ…「あ、自分のルートだと良くないかも」と気がついた子が数名。地図を見て想像していた地形と少し違ったらしい。
せっかくの道路なので、通った時の楽しさや距離も大事ですが、道路はやはり安全第一。実は斜面やカーブの角度も「道路法」というルールのもと厳密に決められているそう。さらに普通の道路も高いけど、橋やトンネルはもっとお金がかかる…ざっくり計算してみるとこの距離で20〜30億円もかかるんですって!それらの条件を聞き、作りやすさやコストの面なども総合して考えていくと、だんだんこどもたちの意見がまとまっていきました。結果、3つ目の「南側をぐるっとまわるルート」をつくることに決定。
「たぶん」や「こんな感じでいいか」は御法度!坂の角度やカーブの大きさなどの決まり事もありますし、地形や周辺の環境についても頭に入れて、最適なルートを細かく決めていきます。安全に、そして無駄なく効率よく作ることができるものにしよう。
道路設計は、一本の「道路の中心線」を決めるところからはじまります。角になるところはカーブ定規でなめらかに繋ぎます。
中心線が決まれば、道路の全長がわかりますね。コンパスで100mごとの測点をふっていくと…約1.9kmの道路になることがわかりました。
さらに中心線の両側に道路幅の線を加えていきます。とにかく正確に!
次は地形の高さを読んで、各種図面をつくっていきます。
もとの地形よりも低い位置の道路は「切り土」で、高い位置には「盛り土」でつくります。また坂道の角度には限界がありますので、ここでトンネルの位置や長さがどのくらいになるのかも決まりました。
「切り土」や「盛り土」の深さや横幅を出していきます。ややこしいのは縮尺の計算があること!測点ごとにきっちり計算しながら書き込んでいきます。間違いがあると、道路工事がたいへんなことになるぞ。
【竣工図】
縦断図や横断図をもとに、道路の全長や幅、切り土、盛り土、トンネル、橋…すべての情報が描かれている図。最終的にどういう工事をするかが色分けされていきます。
ちなみにオレンジ=切り土、緑=盛り土、茶色=トンネル、赤=橋です。
す、すごい…道路の設計図ができてしまいました。澤先生いわく「小学生にここまで詳しい道路の授業をするのは、たぶん世界初でしょう」たしかに、小学生のこどもたちにはかなり難しかった!図面を作るのも汗だくでした。身近な道路が、こんなふうに作られているなんて…体験してみないとわからないことだらけです。
1日目に完成させた竣工図を、プロジェクターでジオラマのベースに投影しながら制作しました。山あり谷ありの地形に道路を作るには、土地を切ったり盛り上げたり、トンネルを掘ったり橋をかけたり…工事もたいへんだ!
模型づくりは、第1工区〜第5工区に分かれて制作。隣同士の道路が繋がらなかったら大変です。高さ・深さ・幅を図面で確認しながら慎重に作業しました。
切り土は、土地を掘る。
盛り土は、土を盛る。
川には橋、トンネルも開通!いつのまにか車も走ってた。
ほぼ図面通りに、道路が無事完成。
ジオラマ制作はあっという間に時間が過ぎていきました。工作はふだんのえふでの制作で慣れているこどもたちですが、「図面に合わせて正確に」「段差ができたら道路として機能しない」などここまでの精度を求められることはあまりありません。そしてこんなに本格的な設計を体験したのももちろん初めてでした。澤先生、貴重な授業をありがとうございました!
こどもたちの作ったジオラマをはじめ、平面図や縦断図などをしばらくの期間、まほうの絵ふでの教室で展示しています。ぜひご覧ください。