デザイン研究チーム/キーワードを調べる

11月21日(土)
「飛行機の中で少し書いてみました」と博士が取り出したメモ。
「…?!」しばしの沈黙…
おそるべし博士の頭の中。脳内マップ?

な、なんですかこの意味不明な言葉と、クモの巣みたいな線は…?「午後からは、それぞれに問題を出して図書館で調べものをします」

早めに昼食をとって、路面電車で図書館へGO!

ゴトゴト揺られること約15分…札幌市内で一番大きな図書館に到着。さてさて、博士からどんな問題が出されるのか…ドキドキ…

「先生!アーツ&クラフツって誰?」「漢字読めない…」「こくりつにしようびじゅつかん?」「ポール…ギャーゴン!」おいおい、恐竜か?

出題されたのは、
ロシア・アヴァンギャルド
コンスタンチン・ブランクーシ
武満徹
アーツ&クラフツ
ポール・ゴーギャン
国立西洋美術館
グスタフ・マーラー
ウィーン分離派
白樺派
ウィリアム・モリス
松方正義
…などなど。つーか博士、半数以上が小学生ですが…まず、人だかモノだかすらわかっとらん。簡単な注意事項だけ伝達して、さっそく図書室へ。

本の海に投げ出され、途方に暮れる子どもたち…果たしてちゃんと答にたどり着けるのか?!

11月22日(日)
前日に引き続き、博士から出題されたキーワードについて図書館で調べものを継続。あまりに予備知識がないため、はじめは相当苦戦を強いられたぞな。検索機で探してもなかなか良い資料が出てこず、本棚の前で途方に暮れる…

「博士ヒントください」

「これでどうですか」

なかなか筋がヨロしい、よく調べたねと誉められることもあれば、「これはちがうものだね」とばっさり切られることも。そのキーワードが何なのか、短く的確な答を求められる。例えば人物だと、経歴をシンプルにまとめられなかったり、思想や運動は定義そのものが一言ではなかなか表せない。さらに建築物などは「設計したのはだれ?」「特徴は?」うぅー

それぞれ苦戦しつつもどうにか形にまとめていく。




実は博士、子どもの学年・能力に応じて出題の難易度を調整していたのだ。中学生たちには、例えば印象派、民芸運動など聞いたことがあっても定義そのものが広くて一言でまとめるのはむずかしいものが。調べものをするってのは、根気と理解力はもちろん、要約力や特徴の抽出力が問われるのだ。

小学生たちには人名や建物などの固有名詞を中心に。博士から次々と出されるキーワードに子どもたちの興味も膨らんでいく。しかし…小学生たちには読めない漢字という高い壁が。さらにちんまい体には、本がでかくていちいち重い…

それにしても…博士が出す絶妙なヒントにはワシも舌巻いた!子どもが何に困ってるのか、相手の能力や興味を的確に捉えてアドバイスしてくれるのだ。すげ…まだ数回しか会ってないのに、ぬぁんでわかるの?!

だいたい、検索機で調べても、ちょうどよくドンピシャな資料があるとは限らないのだ。予備知識がなくそのキーワードだけが頼りの子どもたちは、便利さとともに仕組みの限界も感じつつ、結局は「歩く辞書」柳本博士のところに走るのである。この調べものの活動は博士曰く「リンクするキーワードを仮説によって導き出すしかない。つまり、ネットにヒットしない情報をいかにリアルフィールドで導き出すのかの訓練」。たしかに検索して出てきた本の近くに同じキーワードについて書かれた本があっても、子どもたちのアンテナには全くひっかからないん。ワシも横で見ていて不思議だったのだ。系統立った知識が必要ってことだな。

えふでに戻り、それぞれメモリ容量いっぱいになった頭を整理する。ペンを片手に、何やら板書をはじめる博士。

さらさらと今日のキーワードを書き出す。

「民芸運動を調べた人は?」「バーナードリーチを調べた人は?」それぞれの調査結果を発表してみると…

お互いどこかでつながりがあることが発覚。「へーっ」「なるほど!」ここにきて、キーワードがリンクするという意味を実感する。

博士がよく言う、「ひとつの知識がどこかとつながって線になる。線が増えていくと、いつしか面になる」ってのはこういうことなのだ。たしかに博士と話していると、ひとつのことからいろんな話題がつながって出てくる…まさに芋づる式。天才の頭の中ってこんなふうになってんだな!しかもそうやってできた面が増えるといつしか立体になってくっつーから…博士の脳はまるで宇宙ぞな。

さてさて
ここから先はえふでの腕の見せどころ。日頃鍛えたドローイングの力を発揮するのだ!

資料写真を自分なりの絵で表現していく…つーても、ワシがするのはいつもの体育会系・絵画指導でございます。

市川崑。ルーシー・リー。

安藤忠雄。

武満徹。

イサム・ノグチ

アンリ・マティス。若いのう。

グスタフ・クリムト。こりゃ傑作!

他にも建物や、思想を象徴するようなアイテムをピックアップして描いてるのだが、博士からもえふでの子どもたちの描写能力は「なかなかいいです」とお褒めの言葉をいただいだのだ。えっへん。

そして1月の展覧会ではぬぁんと…会場に博士の脳内マップを再現するとな!しかも中に入って探検できるように、超特大サイズの立体マップっつーから…す、すげくね?しかしそのためにはまだまだキーワードが足りんのだ。ということで、つづきは来月のワークショップで。

12月26日(土)
すっかり雪景色になった札幌。まず朝一番には、えふでのウェブに掲載していた柳本博士のコレクションの数々が教室に登場。現物だぜ!

博士のファイルから出てきたのは、ガムや砂糖の包み紙、牛乳びんのふた、マッチのラベルなど身近なもの。さらにはオリンピックや万博グッズ、エアライン関係の資料まで…本物を目の前にするとさすがにすごみがちがう。博士に詳しい解説を聞く。

おもしろかったのは集め方のコツ。例えばガムなんかは「食べたらみんな捨てちゃうでしょう。それをシワにならないようにクリアファイルなどに挟んで旅行中にためていく。そして帰って来てから、個別のファイルに入れていくんです」ぬぅぅ…目のつけどころもすごいが、何せ博士はマメ!やろうと思えばできることも、これだけていねいに何年も続けた結果…「ガムの包み紙はだいたい20万枚くらい」できそうでできないってまさにこのこと。博士のファイルはため息が出るくらい美しいのだ。ひとつひとつは珍しいものではないが、これだけ整然と並ぶと…ものの価値が根底から変わっていくのがよくわかるぞな。

そして制作の前に、1月の展覧会プランについて子どもたちに説明。「この中央にたくさん立ってるの、何だと思う?」あ、ひょっとして…

「今調べて絵描いてるやつでしょ」そのとーり!勘所のいいえふでっ子たちは思わずつばを飲む。「何枚あるのかな」「間に合うの?」こりゃおちおちしてられんとばかりに、さっそくチームに分かれて調べものがスタート。今月は文明の利器、インターネットを使ってさくさくと資料を集めます。

先月同様、博士から出題されたキーワードが何なのかを調べていく。今回は100文字前後にまとめるのだ。要点を簡潔に、かつ的確に。博士に提出して合格したら赤いシールが。

ダメな場合は延々調べ直しでございます。なかなかOKが出ず手間取る場面もあったが…

しかし、先月の「魔の図書館」の経験から比べると、ネットの検索はかなり早い。苦労した甲斐あって、キーワードがダイレクトに出てこない場合には周辺の事柄からじわじわと調べていくという技がすっかり定着したもよう。この辺は要領の良さやセンスも問われるところだが…調べもののテクニックについては相当うまくなったぞな。何事も経験だのう。
さらにイラストの資料となる写真や画像も各自で出力。絵を描く方もすっかりお手のもので、ラボはもちろん、ジュニアの小学生も負けじと数をこなしていく。

こちらは深沢直人さん。

田中一光さん

ワシの今日一番のお気に入りはこれかな。フリーダ・カーロ。

えふでも博士も子どもに厳しい方だと思うが、それでも今日一日、子どもたちは感心するほど集中力があったぞな。しかし!現実は…

足りねー!ぜんぜん足りてねー!しかも博士、キーワードをさらに追加するらしいのだ!明日の昼までに仕上げろって…うーむ、えふでの体育会系ぶりがこのあたりで出るのだ。しかし泣いても笑っても明日が最後。博士のスペシャル講義もあるらしいし、がんばるぞ!

12月27日(日)
いよいよ最終日となった博士の授業。朝から博士はこんなものを制作してくれました。

博士の描く字、すげいいであろ?素材や画材の特性をちゃんと考えながら制作しとるのがよくわかる。つーか線自体がこんだけいいってことは、絵描くセンスも相当あるぞな。まさに何でもできる超人だな。

実はこれ、展覧会場の案内に使う看板なのだ。ほんとは小さく書いてもらったものをパネルに大判出力するつもりだったのだが…博士に相談したところぜんぶ手書きでチャレンジすることに。これは超レアなお宝になるぞな!子どもたちへの指示をしつつ、質問にも答え、さらに下描きも何もなしでひたすらキーワードを書き込んでいく…この大きさの画面だから、体力も集中力も求められるが、さすがなのだ!恐るべきことに文字の書き損じはひとつもなし。完成品は展覧会場で見てくれたまえ。

昨日から続いている子どもたちの調べもの・イラスト制作、最終日の追い込みは本気でつらかったぞなー。描いても描いてもなくならない博士のキーワード。前日の帰りに「宿題」のキーワードをもらい、家に帰ってから調べてたり、朝早めに来てスタートしたのもいたのだが…

昼食の時間が押したこともあり、疲労はピークに。そんな時でも博士はたんたんと、着々と描きつづける。

うーむ。どうしたらそんなに集中力が続くんですか。やはりこれって子どもの頃からの体力づくりみたいなもんでしょうか。

最終的に博士から出題されたキーワードは計205問。子どもたちが必死になって調べた解説とイラスト作品は、展覧会場で脳内マップとしてお目見えします。