みんなの橋

人と人とが出会う。町と町とをつなぐ。
「橋」には、いろんな価値があります。
「橋」は誰かに嫌われることなく、カッコイイ「橋」として、
まちの風景の一部を担います。
「橋」は多くの人や自動車が使うため、
信じられないほどの大きな力にずっと耐え続けます。

「橋」はみんなのもの。
その計画や工事には長い年月をかけてたくさんの人たちが関わります。
さらにできあがったものは、
みんなができるだけ長く気持ちよく使い続けられるように、
たくさんの課題を解決しながら守り続けられています。

毎日のように使っている「橋」。
こどもたちがその大切さに気づくきっかけをつくりたいな。
夏休みに実施した「道路をつくろう」。
今回はさらに一歩踏み込んで、みんなの「橋」について学びました。

【1日目】

【橋のはじまり】
橋の専門家・松田 達生先生のお話から授業がスタート。
「橋のはじまりはいつからだろう?」あまり考えたことがないけれど、きっと「むこう岸に行きたい!」「あの人に会いたい!」っていう気持ちから、川や谷に棒のようなものを渡したのが橋の始まりでしょう。

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きっと人間の祖先は、樹を倒して川の向こうに渡っていたのでは?すごくシンプルだけど、行けなかったところに行ける。会えなかった人に会える。そんなふうに「あっちとこっち」をつなぐのが橋なんだね。

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有名な「ロンドン橋」っていう歌があるけど、あの歌の歌詞を全部聞いたことある人いるかな?ロンドン橋が落ちた、落ちた、「さあどうしましょう?」ロンドン橋は、イギリスのロンドンを流れるテムズ川にかかる大きな橋。長い歴史の中で、何度も架けかえられるほどロンドン市民にとって大事な橋だったようです。

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歌詞をよく見てみると、はじめは木や土を使って作っていたけれど、流されてしまった。次にレンガやモルタルで作ってみたけれど、長持ちしなかった。歌の後半になると、鉄や鋼が使われている。何度かけても壊れてしまうから、色々な材料で橋を造り直していたことがわかります。

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この歌にある通り、橋の歴史は木や土など自然の素材からはじまり、切り石やレンガなど自然のものに少しずつ手を加えた材料を使うようになった。さらに現在のように鉄やコンクリートが使われるようになったのは産業革命後あたりから、と松田先生。

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さて橋の話でもうひとつ。「橋の役割って何だろう?」人が歩くのはもちろん、車を通す橋、電車を走らせるための橋、水を流すための水道橋など、時代や地域のニーズによって役割も様々です。

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そして現代の世界の橋の技術の高さにはみんなびっくり。海や山の間を渡す長い長い橋、変わった形の橋、中には動く橋まである!「うわー!」「おもしろい!」

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小川を渡る小さな橋から、海峡をまたぐ大きな橋まで、世界にはいろいろな橋があることがわかりました。橋の魅力がこどもたちによく伝わったところで、松田先生からさらなる質問が。「じゃあ『いい橋』ってどんなだと思う?」安全な橋、長持ちする橋、見た目がかっこいい橋…こどもたちの頭には様々な橋のイメージが膨らみ始めたところで、粘土を使った「自分の橋づくり」に挑戦です。

【粘土でつくる橋】
こどもたちがつくる橋は、長さ45cm、幅8cmの粘土の橋。木製の土台に橋を渡します。「なるべく強くて安全でかっこいい橋を作ろう」

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橋作りの基本ルールはこちら。

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さらに「使う材料は少なくて安い方がいい」「粘土100gは1千万円、つまり1kgは1億円に換算します」教室にずらりと並んだ粘土の玉。この1玉が¥10,000,000ですよ!

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教室にはいつも使い慣れている道具もいろいろ揃っています。えふでっ子たちの知恵と技術の見せどころ!

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土台になる木材の準備ができたらみんなちょっと緊張気味。制限時間は40分。頭の中であれこれイメージしているものをその通りに作れるかな?

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スタートと同時に粘土を丸めたり伸ばしたり、手を動かしながら構造を考えるこどもたち。

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1玉使うごとに1千万円…なんとか粘土を節約して、工夫しようとするけど、なかなか形になっていきません。「崩れちゃう…」「つながらない…」

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重いと崩れるし、薄いと弱いし…一見扱いやすそうな粘土という素材の手強さにみんなだんだんと気付き始めました。どこを強くするか?力がかかってるところは?終了時間が近づくほど、こどもたちの頭がいっぱいに!

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「こんな時こそ…」とばかりに、図書館から借りてきたという橋の本を参考にする子も。準備が良いぞ!

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「どうにかつながった!」「崩れそう!」しかし終了時間です。中には「向こう岸まで届かなかった…」くやしそうな子もちらほらと。

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終了後、それぞれ作った橋をみんなの前で発表しました。工夫したところ、苦労したことなどあれこれ松田先生に相談して、アイディアを膨らませていきます。

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「もう少し柱の位置を考えてみて」「安さを考えるだけじゃ強くて安全な橋はできないよ」アドバイスをもらうたびにこどもたちの頭が少しずつ整理されてきました。「粘土をもっと思い切って使ってみて!」

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途中、「おお、この形はすごくいいね。」松田先生から大きなヒントが。

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たしかになんだか強そうです。「引っぱり」と「圧縮」を考えること。伸びている部分と縮まっている部分は、それぞれかかる力が違うのです。なるほど、世界のいろんな橋を改めて見てみると、それぞれ力のかかり方が違うのがわかります。

改めて粘土の橋のルールを確認して、「安いことよりもまずは安全第一」丈夫で長持ちすることが最低条件です。デコボコの道なんて誰も走りたくないでしょ!

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松田先生のたくさんのヒントからまた新しいアイディアが浮かんできたこどもたち。初めの橋に使った粘土をまとめ直して、再チャレンジ!勢い良く、頭の中のイメージをどんどん形にしていきました。

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三角の構造をベースに考える子、アーチ型に補強を加えて作る子、有機的な形で弱い部分を強化していく子…前回の制作よりはそれぞれの方針がはっきりした取組みになってきました。「粘土は思いきって使ってね」

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終了後、それぞれ使った粘土の重量を使ってお金に換算。最安値は1.1kg、つまり1億1千万円の橋。さらに「美しい橋」「安全で快適な橋」に先生たちから賞が与えられ、1日目の授業は終了しました。こどもたちの頭の中には早くも橋の歴史や形、構造についての知識がギッシリ詰まっていました。

 

【2日目】

【道路と橋】
北海道内、札幌市内の橋など、澤先生が計画した道路にかかる橋についてお話を聞きました。橋は川や海にあるだけではありません。札幌市の道路を空からみると…高速道路や電車が走るための橋など、まちの中にもたくさんの橋がありました。

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【橋と物語】
こどもたちが大好きなジブリの映画には、実は橋がたくさん登場しています。石造りの橋、水道橋、木組みの橋…記憶に残るシーンで、いろいろな形の橋が描かれています。

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またアートの表現を見てみると、あのムンクの「叫び」や、モネのウォータールー橋のシリーズ、さらに日本画では富嶽三十六景の中にも、美しい形の木組みの橋からちょっと不思議な形の橋まで、よく見るとあちこちに、橋が登場していました。「あっちの世界」と「こっちの世界」をつなぐものとして、物語性のある画作りに、橋は大事な役割を担っているんですね。

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前日の授業で見た橋の形や先生の話を思い出しながら、絵本「ブリッじいさん」に登場させるキャラクターをみんなで考えました。

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アーチ橋、斜張橋、トラス橋、桁橋、吊り橋。さらにブリッじいさんはどこにいるのか?どんな時間に、誰が通るのか?どこからどこにつながっているのか?それぞれのページに描く「ブリッじいさん」の物語を考えました。先生たちから貴重なヒントももらいながら、リアルな橋とこどもたちの想像が、それぞれの絵の中で混ざり合っていきました。

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こどもたちが描いた各ページの絵は、最終的に全部をつなげてひとつの長い絵本へと展開していきました。

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朝から昼、夕方から夜、今日から明日へと時間がつながり、景色から景色がつながるように、実はこの絵本には「しかけ」があります。なんとそれぞれ描いた絵は平行四辺形の紙で、絵の一部分を折り曲げて前後のこども同士、景色やストーリーがつながっていくというもの。完成した絵本のmovieはこちら!

この授業に参加してくれた3名の先生たちからコメントをいただきました。
ありがとうございました!

 
●橋の先生
松田 達生 Tatsuo Matsuda
粘土で橋をつくる。実はこれ、大学の土木学科で行われている授業をアレンジしたものです。こどもたちには少し難しいかなと思っていましたが、そんな心配をふっ飛ばす何ともたくましい創造力!構造力学の基本を感覚的につかんだこどもたちは、様々なアイデアで見事に橋をつくり上げました。今回の授業を通じて、普段何気なく渡っている橋が気になる存在になってくれたらうれしいです。
 
●道路の先生
澤 充隆 Mitsutaka Sawa
こどもたちが大人になる20年後、多くの橋が50歳以上になります。そのときもその先も、道路や橋が堂々とそこにあり続けるために、私たち専門家はもちろん精一杯頑張ります。ですがそのときの大人たちに、様々な形で委ねなければならないこともあるように思えます。「道路」に引き続き「橋」の授業。本気で取り組んでくれた未来の大人たちの眼差しに、大いなる可能性を感じました。
 
●本の先生
岡本 零 Lei Okamoto
子供の頃、家の前には小川が流れていて、小さな橋をふたつ、中ぐらいの橋をふたつこえて、小学校に通った。橋からのぞきこんで見る水のきらめき。せせらぎの音。らんかんにもたれてあおぐ空は、いつもより広く見えた。橋の上では、きこえる音やにおいも違っている。ブリッじいさんは便利なだけじゃなく、僕らに世界をより豊かに感じさせてくれる大事な仲間なんだ。